Luvit Tex Take Mix

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Turinn - "18 1/2 Minute Gaps" (Modern Love)

Love104 dist preview

このネクストレヴェルはもはや、あのSquarepusherAutechreの域まで達する驚異を孕んでいる。Andy Stottらインダストリアル・テクノの覇者達を擁するUK名門Modern Loveより放たれた新たなる刺客は今までとひと味違う、Alex Lewisというまだ名も知れぬ新人だった。レーベルいわく「マンチェスターのニュージェネレーション」とのことだ。BoomkatのRIYLにMove DLorenzo SenniKassem Mosseともあるが、言ってみれば、彼らの音楽をも越えた次元にこのベースミュージックはあるんじゃないだろうかとさえ感じる。"熱量"と"強度"が確立されているんだ。

蓋を開けてみるとこれまた万華鏡のように表情を変えてくれるから爽快極まりない。デトロイト・マナーの高速なリズムトラックから、人里離れた廃工場の中で行われる解体儀式のようなダーク・インダストリアル、黒光りするグルーヴに乗せて、僅かな「間」を埋め尽くすレイヴ感満載なアッパー・ハウスまで幅広いジャンルへと挑戦し、その懐の深さを見せつけてくれる。

Alchemy Masteringでのカッティングということもあり、マスタリングも秀逸でロウの出方から、重低音の効き具合もハンパじゃない。音響空間を支配するのは、残響音の心地好さとアシッド極まりない恍惚の鱗粉だろう。有機的かつ無機質という相反するテクスチャーを同居させたこれほどまでに異質なベースミュージックをこうも容易く捻り出すとは、Willowや今後リリースを予定されているCrowwと併せマンチェスターの現行シーンの熱さが物語られている。恐るべし、マンチェスター。一発目でこれなので、次はどんな爆弾を投げ込んでくるのか、今から楽しみでしょうがない。

Upgrayedd Smurphy - "HYPNOSYS" (R-CH-V)

こういう如何にもなジャケを待っていた感があるよね。Leavingにも名を連ねるメキシコのアーティスト、Smurphyの手によって設立されたと思われるR-CH-Vからは、(Smurphyが死に絶え新たに生まれ変わった)彼女の新名義による最新作が発表されることとなった。こちらはD/P/Iのリリースも抱えていて、アレックス自体も運営に関わっている模様。

さて、冒頭の英文によれば、このアルバムは催眠作用を通過する過程のミュージカル的な解釈となっているらしい。そして、彼女の住むメキシコシティという大都市の喧騒や混沌といったものをフィーチャーしている。数車線にも区切られた道路は排気ガスを垂れ流す車でごった返し、露天では海賊MP3が詰め込まれたUSBが当然のように売り捌かれていく。人々の生活とそのロマンスと社会の闇と血生臭さが錯綜するこの世界有数の大都会は、人間社会のサラダボウルのようなものなんじゃないだろうか。戯画的で目まぐるしいほどの展開が聞き手を待っている。

ここには挑戦的で屈託のない笑顔が垣間見えている。ドープなコンテクストをふんだんに含んだ無数の有機的なサンプリングを効果的に用い、アシッドであり、フットワークの効いたロウなベースが力強く波打ち、急激な音風景の変化の中、気を違えたかのように縦横無尽に駆け巡る。アンビエント/ドローン的であったり、テン年代ニューエイジを彷彿させられる場面もあったりと起伏に富む。この滑稽で、非常に抽象的で、突然変異的な音響風景では、ここには何もかもがあり、何もかもがないという人類の実験場の混沌を見事に体現するに至っていると言えるだろう。

ストリートへと溶け込み、ドラムンベースやジャングルをも通過したベースミュージックの強靭さは然る事乍ら、土臭く、全てを見通したかのような眼力が感じられる。彼女が今まで作ってきたグリッチ・ポップやサイケ・ビートの発展的回収とも言えるだろう。ヴァイナル化一歩手前の荒さや衝動にもまた惹き付けられる。聴き手の誰もがズブズブ沈んで虚無に還る様が伝わってくるような感覚もある。メディテーティヴとは言い難いがこれもコンセプトの狙い通りある種のインナートリップ体験となるに違いない。個人的にカセットで出して欲しかった一作だ。

 

Smegma - "Self​-​titled" (Post-Materialization Music)

Los Angeles Free Music Society(LAFMS)実験音楽を語る上で絶対に外してはならない名前だ。Destroy All MonstersThe Residentsと並び、その音楽集団の名前は多くの前衛音楽ファンに知れ渡っている。ジャパノイズにも多大なる影響を及ぼしたとされるAirwayのJoeとRickのPotts兄弟、Chip&Susanの Chapman夫婦などに始まる彼らの系譜は、まるでキャプテン・ビーフハートフランク・ザッパに続くかのようにLAのシーンに現れ、70年中期に始まり、今に至るまで、変容し、Bruce LicherJoseph Hammerなどさらなる脈を得て拡大し、膨大なリリースを続け、日本のアーティストでは、工藤冬里灰野敬二とのコラボレーション、果てはPANにまでも連なり、未だにその全貌を把握するのは困難とされている。ソレは昨年のLAFMS BOX BOXや今年のAnother Timbreからの二作の再発/発掘、LAFMSを象徴する大名作、Le Forte Fourの「Bikini Tennis Shoes」の先日のリイシューを経ても尚だ。というところまではLAFMS語りの常套句。

今回取り上げるのは、The HatersことGX Jupitter-LarsenやSon Of Halami(Feeding Tube、Night People)などのエクスペリメンタル作家が名を連ねるロシアのPost-Materializationから発表されたLAFMS中核バンド、Smegmaの10年代のライブ音源である。

私自身は、Smegmaの作品には3、4作しか触れられていないため、彼らのことを扱っていいのか迷うが、このブログでメインに紹介するであろう現代のエクスペリメンタルを聞いている人にも古くから続く前衛音楽の波を体験してほしいとの思いで筆を取った。

こちらは、デジタル版とカセット版、又は7インチ+カセット+ブックレットのセットのいずれかを購入出来る。LAFMSにまつわる貴重な資料としても、このブックレットは非常に貴重だろう。しかもこちらのバージョンは25部限定とレアな模様だ(しかし現時点でかなり残り部数に余裕がありそうにも見えるが。)バンドキャンプのコメント欄にはLAFMSの歴史と彼らへの愛についてのみびっしりと書かれているため、作品の詳細はあまり把握出来ないが、2011年と2015年のライブ音源らしい。

なんと言ってもこの魅力はサイケデリックの極北を行くとでも言えようフリーク・サウンドに尽きる。この音楽の在り方は非常に多様で深いバックボーンが窺い知れるだろう。ガレージ・ロック、フリージャズ、室内楽密教音楽、エレクトロ・アコースティック、非音楽までも行き来しつつ、しっかりと頑丈な展開を持って突き進み、滝のように狂乱するLSDの雨が雷を引き連れて暴れ回りとにかく止もうとはしない。演奏が微塵も揺らぐことも無いのは見事としか言いようがない。ストイック過ぎる。微睡みと混沌が同居する麗しいカオスの中、LAFMS自体が変容を続けてきたように、この音楽も天地の如く季節の如く表情を変え、さんざめいては、ときおり魅せる幽玄なサウンドスケープには年輪の入った知性をチラつかせ、聞く者の心は完全に打ち砕かれる。峠を越えれば視界良好ということも無く、これぞ、端境の音楽の源泉といったところか、私もLAFMS初心者ながら一ファンとして彼らの活躍がこれからも楽しみでならない。