Luvit Tex Take Mix

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DJ DOLBEE ”TOKYO CINEMA”

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DJ DOLBEEの2ndアルバム限定300枚プレスにして自身の集大成。
志人やなのるなもないへの楽曲提供で名を上げ、音楽史に残る名作中の名作「明晰夢」や「杣道EP」など志人が近年(と言わず名曲”円都家族”志人自身何百何千と聴いたトラックで)まさに天才と天才の邂逅といった感じだと思っている。

運命は時間の経過と共に必然に思われたりするように、経年変化を愛するような彼のサウンドはターンテーブルとMPCからつくられている、サンプリングを絶妙な鳴りと響きに変えていく名人芸職人芸の領域だ。

前作の”STILL UNDERGROUND”と同じようにインストだけで構成されていて、モードとは遠い次元で鳴るような(近いところでいうならボーズオブカナダ)などのファンでも楽しめそうだが彼の音楽というのは、ノスタルジーやメロディというよりまさに自ら手染めで作り上げた工芸品に近い。ドープの極み。アンビエンスやリヴァーブ漬けのサウンドに非常にいい鳴りで叩かれているビートがかっしりとハマる具合だ。

ビート自体は90年代の黄金期を彷彿とさせるものもあり、本当に何度でも聴けるような作り込みと抜き差しの美学で構築されている。

前作よりまたドープ具合は深く懐も深い。初期のスプリットの楽曲のリメイクも収録されていて、個人的には前作より好みに近づいた。

自然と侘び寂びが存在していて、アタックを削ってリリースを伸ばしたようなパッドのループはまさにヒップホップ=サンプリングミュージックというひとつの正解に基づいて造られていると思う。
劣化したレコードノイズすらも曇りかけの絶妙な音像で、ヒップホップ=サンプリングミュージックの正義が、一長一短でつくられたのとは違うんだと無言の主張も聴こえてくるが、これはあくまでドープなアンビエンスと環境音とビートの適材適所の塩梅。

音が非常に綺麗でこういう音をつくる人はそうそういないし、ここまで極めることはできるのでしょうか?

哲学の答えのようでこれが音楽なんだなあ。涅槃のような音楽です。迷いより音楽を選んだ男の音日記ですね。

 

Kevin Drumm - “Old Connections” (Self Released)

90年代から活動し、ハードなノイズからドローン、即興演奏まで幅のある音を聴かせてくれるケヴィン・ドラム。その作品リリースはEditions MegoErstwhileなど比較的大きなレーベルから自主リリースまで加えると膨大な数に上り、なかなか全貌を掴むのは難しいです。

今作は彼自身のbandcamp*1で今年に入ってから公開された*2作品。現時点ではデジタルのみのリリースでフィジカルでは出ていないと思われます。

内容はガサゴソといった物音と和声的な色合いが感じられない持続音が重なるモノトーンなアンビエント/ドローンといった趣。このブログでも先に紹介されているGiuseppe Ielasi3 Pauses*3や昨年Entr'acteからリリースされたJoachim Nordwall『THE MESSAGE IS VERY SIMPLE』などとも通じる部分のある作品に思いますが、前者ほどこのスタイルを突き詰めた感じもなく、また後者ほど緊張感の高いものでもないので案外聴きやすい印象です。

制作に関しては、オーディオジェネレーター、デジタルカメラによるレコーディング、コンピュータによるアシスト、との記載がありますが、持続音の部分においては楽音に近い安定したピッチが感じられるような音色はあまり用いず、モーターの稼働音や水道管の音、排気音や虫の鳴き声などをピッチダウン加工したような像がボヤけた音が曇った空間に木霊するようなイメージなので、徹底的に角を落としたノイズドローンとも言えるかもしれません。

彼の作品は単純に数が多くどこから手をつけていいやら…といった感じであまりチェックできていないのですが、こういった作風もあるのだなと少し驚いた一作でした。彼のbandcampにアップされる作品は正直クオリティに首を傾げるものや、評価に困るものも多い印象だったのですが、これは久々に当たりを引いた感があります(笑)

*1:過去の音源や新作など主にデジタルで頻繁にアップされていて膨大なカタログ数になっています。昨年その中からドローン寄りのものをセレクトした6枚組ボックスがSonorisからリリースされたことで注目された方も多いのではないでしょうか。

*2:bandcampの作品ページでは昨年12月リリースとなっていますが、公開されたのは今年に入ってからだったと思います。多分……。

*3:今作と同じく20分を超える時間の中で持続音のみよるパートや環境音/物音のみによるパート、それらが重なったパートなどが切り替わっていくような構成がとられています。ただ『3 Pauses』はパートの切り替えがクッキリとしていて実質別々の曲を1トラックとして収録したような感触である(1曲毎の再生を回避するため?)のに対し、こちらはひとつの曲としての輪郭を維持することに主眼が置かれているように感じます。

K2 / Yasuhito Fujinami - "S/T"

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ノイズ・ミュージックという限りなく快楽的で、そして限りなくエクストリームな音楽はいったい何処へと連なっていくのだろうか。多くの人のように非常階段やメルツバウがノイズへの入口だった私も、それから何年か経って、ジャパノイズと称された日本のノイズに始まり、海外の現行のノイズに触れるようになっても、ノイズミュージックの深淵へと辿り着くにはまだまだ知識も浅ければ、聞き足りてもいない。未だに「ノイズを聴く」という行為の纏うある種の「特別」のようなものを拭い切れてはおらず、まだまだ私も私の耳もケツの穴も青臭い。

K2とYasuhito Fujinamiの二名によるこのセルフタイトル・スプリットアルバムは、終わりに近づくテン年代の後半にも留まることを知らぬノイズの勢いをまさしく音で体現した重要な作品として記されるべきだろう。説明は要らないと思うが、日本のノイズを語るうえで外せない男、八十年代初期から膨大なカセット作品をリリースし、今やジャパノイズの帝王の一人として君臨するのが草深公秀によるK2。そして、今回、ここでフォーカスを当てたいのは、ハンガリーのノイズレーベル、綾波レイのポスターをレコードに付けてくることでお馴染みThe RitaBlack Leather Jesusといった現行ノイズ大御所も擁するThe Level of Vulnerabilityからのリリースで私もその名を耳にすることとなった埼玉のノイジシャン、Yasuhito Fujinamiである。

彼は2015年頃から膨大な数のカセットとデジタル作品をリリースし始め、Macronymphaの旧友Armenia主催のBizarre Audio Artsや近年ディープな盛り上がりを見せるHarsh Noise Movementなどから作品を発表するなど活動の拡大に余念が無い。こちらのアートワークは、The New Blockadersの「Le Retentir Non」やUrashimaのコンピ「Valkoinen Kohina」などでデザインを務めるコラージュ・アート作家、Ewan Aparicioが担当していて、マニアの必涎のアイテムといったところか。

こういったことを書くのもアレなのだが、この人のツイッターからも感じられるようにYasuhito Fujinamiのノイズには暴力性というよりも、音楽への探究心や誠実さ、人柄も汲み取れるような俗ならぬ魂が込められているように私は思う。ノイズをただの「騒音」として終始せず、深く己をみつめ、省み、繊細な感情の機微を表現する絵筆として向き合っている姿が-音楽を音楽として作り手自身看做していなかったことも多々あった一環のパフォーマンス・アートとしての領域から、純粋な音楽としてのノイズへと向かっていく姿が私には見えるような気さえしている。

Yasuhito Fujinamiの音楽はおしなべて未来志向であって、もちろん過去へのリスペクトも徹底されている。一貫して音の粒も細かくクリアになった近未来的なテクスチャーは新鮮なものに感じられ、ノイズという音楽を作る人の世代も変わりつつあるのだなと認識される。Kazuma KubotaPuce Maryといった00年代以降のオルタナティヴなノイズの流れにも共振するようなポスト・ノイズ的な音風景は、ノイズのアンビエント的側面を強調して、静謐さすら覚えるように包容力を持ち、従来のような無機物から生命の神秘を感じさせる有機体としての躍動感を以て、綿密に敷き詰められている。霊性さえ感じるその神聖なタッチは、壊すのではなく、構築していくような感覚だ。新しい、この人のノイズを私はこれからももっと聴いてみたいと思う。「ポスト・ノイズ」が無かったとしても、日々の生活の一部として。