吉村弘 - "Music For Nine Post Cards"
数年前、Mariahの『うたかたの日々』が、Palto Flatsよりアナログリイシューされ話題になったことが象徴的だが、近年これまで見落とされていた80年代の日本のニューウェーブ、ニューエイジが一部で再評価されているのはご存知の方が多いので詳細は省かせて頂く。今年も高田みどりの『鏡の向こう側』が同レーベルよりリイシューされ、話題となった。
また今年は、Visible Cloaksが象徴的なニューエイジアルバムを発売。彼等の参照する80年代の日本の環境音・建築学と並立するニューエイジサウンドに関しては、以下の記事が大変詳しいので是非一読して欲しい。
また上記記事でも紹介されているこのミックス作品も素晴らしい。フリーダウンロード。
Fairlights, Mallets and Bamboo Vol. 2 - Root Blog
Abletonの記事で紹介されている、吉村弘、芦川聡、尾島由郎といったアーティスト、また個人的に好いている鈴木良雄、日向敏文などの音源が、海外のコレクターと思われるアカウントがとある動画サイトへ音源の動画をあげているため、興味がある方は探し適当に聴いてみて欲しい。それぞれ音楽性はやや異なるものの、共通して言えることが、英米が引率する音楽カルチャーの価値観とは、ある種において正反対の姿勢をもっているという事だ。
静寂で空白のあり過ぎる電子音やピアノ、室内楽、ジャズやクラシックという範疇に入らない、素直にリリカルなメロディはウィンダムヒルレコードの作品も連想する。80年代当時の日本のセゾン文化とエリックサティと環境音の関係の公演も数年前に行われたようだが、バブル期とマッチョなアメリカ文化の裏にある独特の静な世界に、当時をリアルタイムで知ることができなかった筆者は最近とても惹かれる。
今回あえてタイトルとした吉村弘の『Music For Nine Post Cards』は、1982年のファースト・アルバム。必要最小限の音は、ブライアン・イーノの提唱したアンビエントの思想をまた別の解釈で行った、自然音そのものを電子音として切り取ったようにも聞こえる。現代においては、iPhoneの無料のGarageBandでもつくれるんじゃないかというくらい、シンプルな作品ではあるのだが、いざつくろうと試しても決してたどり着くことのできない、引きの美がこの作品にはある。一部の店舗でリイシューが行われたようである。今のうちに購入をしておくことで、2040年となりCDという骨董品を久し振りに聞こうと思った時に、劣化寸前の本作を聴くことができる。とても贅沢なことだ。
CDがうまれてから30数年が経ち、この記事で紹介をするCDのほとんどがCDが生まれて間もないころに発売された作品ばかりである。デジタルデータながら、CDの寿命寸前のところで、この時代の音源が一部で再評価されたのは喜ばしい。ヒーリング・フュージョン・ニューエイジなんて、偏見にさらされる一連のジャンルを、フラットな耳を持って、CDメディアが腐敗するぎりぎりのところで、新たに迎えることができて喜ばしい。
先日ちょうど、デイヴィッド・トゥープの自伝が発売され、合わせてWIREDでインタビュー記事も掲載された。上記の内容と連なる部分があるので、是非一読を。
ビードや歌詞やムーブメントにとらわれるがあまり、音の本質的な部分と、視聴による体験と記憶の関係を捉えぬまま、ただ音楽を消費すべきではない。まだ知らぬ世界へ、幼少期に通り過ぎてしまった音楽をもう一度思い起こし、その音を探して聴いてみる、記憶の旅をする良い契機となりますように。