Tomutonttu - Kevätjuhla (Alter)
フィンランドというとどんなイメージを抱く人が多いのだろう。北欧は人口当たりのメタル・バンド数が非常に多いというトリビアを耳にしたことは無いだろうか。実は、伝統的に電子音楽を中心とした実験音楽もまた負けじとトンがっている。
おなじみ、Pan SonicのMika Vainioが創立したSahko RecordingsやLove Recordsなどフィンランド音楽史には燦然と輝く作家たちの軌跡がある。KuupuuやLau Nau、Tsemblaといった現行の地下作家を始め、その実験精神を引き継ぐのが、フィンランドのサイケデリック・フォーク筆頭格、Kemialliset YstävätのリーダーでもあるJan AnderzenによるTomutonttuと言えよう。
16、17年と二年連続で来日公演を果たしているHelmがキュレーションするAlterからリリースされた本作では、北欧の伝統的なフォーク・ミュージックと電子音楽の芸術的な縫合が図られている。Janはマルチメディア・アーティストであり、今作では彼のインスタレーションが下敷きとなっていて、なんとカビや微生物の一生をモチーフにしているというぶっとんだファンシー具合だ。
シャープかつミニマルな表現で意匠の細部までこだわったミクロな音響設計はフェティッシュな領域にある。おもちゃの楽器やチープなエレクトロニクス、自然界の素材を多用したこの声なきビートで描かれる世界観は非常に抽象的かつ曖昧で、彼の根底にあるという「非言語的なコミュニケーションの可能性」への思索が感じられ、今回のコンセプトであるという有機物と音楽と大地を繋ぐフォーマットとしての媒体という本作の意義は結実している。再度、音楽をコミュニケーションとして捉え直して、聴き手はどうあるかとも考えさせられる一作だ。
Kingdom - "Tears in the Club" (Fade To Mind)
オンライン・アンダーグラウンドとは何処へと根ざすべくして生まれてきたカルチャーなのかという問いは、テン年代の間絶え間なく語られてきた。ソレについてはAdam Harperの記事が古いながらも普遍性を帯びている。
オーバー・グラウンドとオンライン・アンダーグラウンドとの境界は近年曖昧になって来ているところ。例えば、EndgameはHyperdubへと、WWWINGSはPlanet Muへと、GaikaはWarpへと、このように世界を代表するレーベルへと羽ばたいたのが昨年のハイライトだったんだよね。アーティストによっては意図的にあらゆる情報に制限を設け、また、欧州を中心としてクラブシーンやゲイカルチャーを中心としたマイノリティのコミュニティへの浸透も進んでいる。
KingdomことEzra Rubinは、Fade To Mindレーベルを立ち上げ、多くのアンダーグラウンド・アーティストをクラブ・カルチャーを経由してオーバーグラウンドへと連なる立ち位置へと導いた功績を持つ人物だ。Kingdomのファースト・ソロ・アルバムとなる今作では、オーバーグラウンドの代表的な音楽であるR&Bと、エクスペリメンタル~ベースミュージックと呼ばれるレフト・フィールドの音楽との交易が行われている。
"Nothin"と"Nothin (Club Mix)では、The InternetのSyd Tha Kidともフューチャリングしているのも印象的だし、RihannaやKendrick Lamarの作品にも参加しているSZAも、A-1"What Is Love"とB-4"Down 4 Whatever"で起用されていて、さらなる飛躍に余念が無いように思える。知的かつ甘美なヴォーカルとバイオレンスかつ挑発的なサンプルを多用したエディットが駆使されたこの音楽はまるで近未来の音楽の金字塔とさえ感じられる。ソレは常夏のダンスフロアを熱狂させるだけでなく、ベッドルームの少年の孤独にもコミットし得る普遍性を抱いている。
オンライン・アンダーグラウンドから発信される音楽は、膨大な情報量とバックボーン、類希なるセンスに裏打ちされた先鋭的な音楽を以て、常に遥かな未来を見据え、前時代が残した遺物の腐敗から立ち逃れようとしている。この無謀とも言える試みを今、人はポスト・インターネットと呼ぶ。